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by 廻 由美子


シェーンベルクのドラマティックすぎる人間関係とは。

(前回「キャバレーとシェーンベルク」はこちら


上の図をご覧ください。これは一体なんでしょう。

 

前回は、シェーンベルクがツエムリンスキー の妹と結婚し、1901年、ベルリンのキャバレーで座付き作曲家の仕事をしたところまでお話ししました。

 

その後1903年にウィーンに戻ってくるのですが、そこからのシェーンベルクの人生、1909年くらいまでを少し追ってみたいと思います。

 

ウィーンに帰ってきたシェーンベルクは、オペラや劇伴の編曲をして生活費を稼いでいました。そういう仕事ができるのは本当に大事なことですね。

 

話はそれますが、私の音大生時代、スタジオ仕事はペイがいいので人気でした。そこに行くと、既に有名になっていた作曲家の方々が、録音ブースから「はい、次はシーン2、です」などと指示を出していたものです。

 

シェーンベルクに話を戻しますと、彼はウィーン宮廷歌劇場に君臨するグスタフ・マーラーと親しくなっていきます。

 

マーラーの奥さんはアルマ・マーラーで、この人も問題の多い人で、後年、彼女が撒いた噂が元でシェーンベルクはカンディンスキーと仲違いする、などあったようです。アルマが撒いた悪い噂については、前々回でお話しした「輪舞」の作者、シュニッツラーも言及しているようですし、何かと問題を起こす人ですね。

 

しかし、彼女は大変魅力があったのでしょう。ツエムリンスキーはアルマのことを密かに好きで、でもアルマはマーラーと結婚し、マーラーの死後は画家のココシュカと大恋愛、その後は、、など、そこまで上の図に入れるとあまりに複雑になるので、今回は入れませんでした。入れなくても十分に劇的ですが。

 

さて、シェーンベルクはツエムリンスキーの妹、マティルダと結婚し、子供もいて、順調な家庭生活を送っているように見えましたが、そう思っているのは本人だけ、という事態だったようです。

 

シェーンベルクは絵も描くことで有名ですが、その絵への情熱が彼を奈落の底に突き落とすことになります。

 

彼は、リヒャルト・ゲルストル、という才能豊かな画家の青年と1906年に出会い、絵画を教えてもらうなどして、大変親しくなります。

 

ゲルストルはシェーンベルクやマティルデの肖像画を描き、避暑地にも同行するほどの親密さだったのですが、そんな中、マティルデとゲルストルは深い仲になっていきます

 

そして、1908年、シェーンベルクに関係を知られた2人は、なんと、愛の逃避行をしてしまうのです。

 

シェーンベルク「出ていけ!」

マティルダ「フン!出ていくわよ!行きましょ、リヒャルト!」

 

と言ったかどうかはわかりませんが、とにかく手に手を取って出ていってしまいます。

 

お弟子さんたち(特にウェーベルン)が仲をとりもち、マティルデはシェーンベルクの元に帰っていきますが、なんと、その後、ゲルストルは絶望して、自殺してしまうのです。

 

いや、激しいです。時代なのでしょうか。

 

ちょうど同じく1908年、日本でも、「元始、女性は太陽であった」で知られる平塚らいてう(1886〜1971)さんが、心中未遂事件を起こしています

 

女性が少しずつ、自分自身の人生に目覚めた頃なのでしょうか。抑圧された人生からの解放を象徴するひとつが「好きな人を自分で選んで、行動する」ことであったのかもしれません。

 

というわけで、戻ってきたとはいえ自分を裏切ったマティルダと再び暮らすシェーンベルクは、精神的に泥沼を這うような時期だったことでしょう。

 

そんな状況下で書かれた作品が、今回のシリーズで演奏される曲目の中で見ると、「架空庭園の書」(1908〜1909)、「3つのピアノ曲」(1909)、です。

 

負をバネにしたのか、音楽と私生活は別だ、と割り切ったのか、彼の頭の中は分かりませんが、音楽が彼を助けたのは間違いないと思います

 

この事件後、シェーンベルクは大変な創作意欲を見せています。

いよいよ超調性、無調の響きへと音楽を開放して、未来へ飛ばしていくのです。


次号は→「架空庭園の書」!その官能的な内容とは?


「3つのピアノ曲」(1909)が」演奏される公演は


「新しい耳」@ B-tech Japan


2024年8月4日(日)〜レクチャー・コンサート「エルヴィン・シュルホフとシェーンベルク」

 

松﨑 愛(レクチャー、ピアノ)、共演:廻 由美子

 

A.シェーンベルク:3つのピアノ曲(1909)

E.シュルホフ:パルティータ(1922)

E.シュルホフ:皮肉〜ピアノ連弾のための(1920)

 

「架空庭園の書」が演奏される公演

 

2024年11月24日(日)〜失われた楽園を求めて〜

工藤あかね x 廻 由美子

 

E.シュルホフ:5つの歌op.32(1919)

A.ツエムリンスキー:12の歌曲op.27 より8番〜12番(1937~38)

A.シェーンベルク:「架空庭園の書」(1908~1909)

 

シェーンベルクの底力を、ぜひ身近に感じてみてください。

 

※チケットはこちら



廻 由美子

(2024年2月28日・記)


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