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by 廻 由美子


ウィーン世紀末とシェーンベルク!


(前回「若きシェーンベルク」はこちら


シェーンベルクが20代だった頃のウィーンを覗いてみましょう。ちょうど良い映画があります。

マックス・オフュルス監督の「輪舞 (La Ronde)」(1950)という映画です。

白黒の実に美しい映画ですが、内容は、とにかく風紀の乱れたウィーン世紀末の男女の恋模様が描かれています。

娼婦、小間使い、女優、上流の奥さま、兵士、小説家、詩人、伯爵士官など、あらゆる階層の男女が、川べりで、小部屋で、邸宅で、個室レストランで、娼婦の部屋で、恋愛遊戯を繰り広げます。もちろんオフュルス監督ですから、上品に仄めかすだけですが。

全員どこかフワフワして地に足がついておらず、軽やかながら物憂げ、快楽に溺れながら厭世的、といったいかにもウィーン世紀末の空気が、オスカー・シュトラウス(1870〜1954)の甘い音楽に乗って繰り広げられます。

原作はユダヤ系オーストリア人のアルトウール・シュニッツラー(1862〜1931)。1900年に出版された同名の戯曲がもとになっています。

表面的には華やかなる帝国ですが、一皮向けば、不倫、売春の横行、差別、貧困、飢え、といった問題は山積し、しかし何も解決されないまま、人々はひたすら快楽に向かう、というウィーン気質を描いたシュニッツラーの「輪舞」はその時代のベストセラーになりました。

しかし、その戯曲は、裏では「輪舞」そのものの生活を送りながらも、表面は道徳的に振る舞う、という保守的ウィーンの人々から「不道徳だ!」と憤慨され、しかもそれは、しばしば反ユダヤ主義的な言葉で批判された、ということです。本当のことを書かれて逆上したのでしょうか。

とにかく「輪舞」は大変な物議を醸し出し、上演禁止となりました。

(ちなみに、前述のオスカー・シュトラウスも、シュニッツラーも、シェーンベルクと少し関係ありますが、それはまたの機会に)

その時代のウィーンには、シュニッツラーをはじめ、フーゴ・フォン・ホーフマンスタール(1874〜1929)、グスタフ・クリムト(1862〜1918)、ヨーゼフ・ホフマン(1870〜1956)、その他にもたくさんの科学者、美術家、建築家、詩人、音楽家、知識人がいました。さぞかし彼らはカフェで口角泡を飛ばしていたことでしょう。

こんな雰囲気の中、シェーンベルクは若い人生を送っていたのです。

彼の作品1となる歌曲「2つの歌」(1898)は、カール・レーヴェツオフという人の書いた詩がテクストですが、エロティックすぎるというか、そのものズバリというか、そういう歌詞のせいもあって、聴衆に激しく抵抗されます。こちらも本当のことを書いたからですね。

しかし、その時代のシェーンベルクのキワメツキは、なんと言っても弦楽6重奏曲「浄夜」(1899)でしょう。この官能に満ちた作品を書いた彼は、なんとまだ25歳です。

この曲は、リヒャルト・デーメル(1863〜1920)の同名の詩に基づいていますが、その時代には衝撃的な内容でした。

ものすごく簡単に説明しますと、

月夜を男女2人が歩んでいる。

女「私は子供を宿しています。あなたの子供ではありません」

男「君はその子を僕の子として産んでおくれ」

月夜の下、2人は抱き合ってキスをする。

という内容です。この詩も詩ですが、シェーンベルクの音楽はそれよりもさらに官能的であり、幾度も襲ってくる波は聴き手を頂点へと誘います。

聴いていると、作曲している最中のシェーンベルクの荒い息遣い、あのギョロギョロした目つき、あまりの集中で頭から湯気が出たり、顔が青くなったり赤くなったりする様子などが浮かんできます。

そして、創作行為、演奏行為、聴く行為、どれもが究極のエロティシズムであることを思い出させてくれるのです。

この「浄夜」のピアノ・トリオ版が、2024年12月1日(日)に演奏されます。


「新しい耳」@B-tech Japan


2024年12月1日(日)15:30開演(15:30開場)

中川賢一(pf)x石上真由子(vn) x マルモ・ササキ(vc)


ワーグナー:トリスタンとイゾルデ(1859)より「前奏曲と愛の死」(pf solo)

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲(1894)(pf solo)

シェーンベルク:「浄夜」(1899)Op.4 ピアノトリオ版

 

「浄夜」へと向かう音楽世界、そして、究極の「浄夜」!

 

チケットはこちら


 

ぜひとも、創作、演奏という官能を身近に感じて聴く、という、「行為」を体験してみてください。


キャバレー文化花開く時代、シェーンベルクはどうしていたでしょう。


廻 由美子

(2024年2月16日・記)


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