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E.シュルホフとシェーンベルク

by 廻 由美子


E. シュルホフとシェーンベルクについて 特別インタビュー!


前回の「ブレットル・リーダー歌詞大意」についてはこちら

今年2024年はシェーンベルク生誕150年に当たるわけですが、もう一人、アニバーサリーの作曲家がいます。

それがエルヴィン・シュルホフです。

1894年生まれのシュルホフは、シェーンベルクのちょうど20歳下になるので、今年は生誕130年となります。

親子、くらいの歳の差ですね。いつの時代も世代間の断絶はありますが、特にこの2人の価値観の差は大きいようです。

でもこの2人は「知らぬ仲」ではなく、手紙のやり取りもしています。

どう価値観が違うの?そもそもシュルホフって誰?

ということで「新しい耳」シェーンベルク・シリーズで、8月4日(日)に開催する「エルヴィン・シュルホフとシェーンベルク」でレクチャーと演奏をしてくださる松﨑愛さんに、お話を伺いました。

松﨑さんは、現在桐朋学園大学の博士課程に在籍中で、シュルホフを演奏・研究両面で「深掘り」している真っ最中ですので、まさに「旬」なレクチャーとなることでしょう。

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松﨑愛インタビュー by 廻 由美子

エルヴィン・シュルホフって、いつの、どこの人ですか?

松﨑:エルヴィン・シュルホフ(1894-1942)はチェコ、プラハ生まれのピアニスト、作曲家です。20世紀初頭の激動の時代にドイツ、そして故郷であるプラハで活動していました。クルト・ヴァイル(1900-1950)やハンス・アイスラー(1898-1962)らと同じ世代の作曲家です。

ジャズなど、若く新しい音楽がどんどん出てきた時代ですね。

シュルホフの生涯はどんなだったのでしょう。

 

松﨑:シュルホフは、第一次世界大戦以前にはプラハ、ライプツィヒ、ケルンの音楽院で学び、指揮、ピアノ、作曲それぞれの分野で賞を得るなど、アカデミックな環境で教育を受けていました。

第一次世界大戦では兵士として戦地に赴き、前線で戦って負傷したという記録が残されています。 

:ちょうど20歳で戦争ですね・・・シェーンベルクはもう40歳だけど。

松﨑:そうなんです。シュルホフは戦後の1919年にドレスデンに移り、さらに1920年10月にはベルリンに移ります。

1920年のベルリンといえば、戦後のゴタゴタの中から、新しい文化が雑草のように生える時代ですね。

松﨑:はい。ドレスデンに住んでいたころから新しい芸術運動であったダダに興味をもち、ベルリンに移ったのちはダダ、そしてジャズを取り入れた作品を残しました。

:ジャズ的な作品はその頃のものなのですね。その後作風が変わるようですが。

松﨑:1923年に故郷のプラハに戻ると、それまでとはうって変わり、比較的大編成の曲を書いています。ダダの影響はなりをひそめ、その作品は彼が20年代から共感をおぼえていた共産主義の影響が色濃くなっていきます。

:その頃から、作品がずいぶんオーソドックスになってますよね。

松﨑:1933年にナチスが政権をとり、チェコにおいてもその影響が強まってくると、シュルホフの作品は退廃音楽の烙印を押され、表立った活動ができなくなります。しかも彼はユダヤ系であったとともに、共産主義に共感をおぼえていましたから、いよいよ危なくなり、1941年にソ連に亡命を試みます

しかし、同年ソ連市民権を得たにもかかわらず、ドイツによるソ連攻撃、いわゆる「バルバロッサ作戦」が開始されたことで亡命できなくなり、1942年にドイツの強制収容所にて非業の死を遂げました。

:シュルホフの同世代には、同じような運命の人がたくさんいたことでしょうね。。。そんな人生を送ったシュルホフ作品の特徴はどんなでしょう。

松﨑:シュルホフの作品を考えるとき、おおまかに3つに区分ができると思います。

第1期は、1918年までのアカデミックな教育を受けていた時期です。第一次世界大戦前、そして大戦中の作品は、ほとんど後期ロマン派の作品のように美しく、流麗なものが多くみられ、時おり、ドビュッシーやラヴェルなどフランスの和声の香りすら感じられます。

第2期は、1919年から1923年ごろまで、つまりシュルホフがドレスデン、ベルリンと移動し、故郷プラハに戻るまでの期間です。

ダダやジャズといった、これまでにない新しい芸術に、シュルホフは新しい「ドイツ」をみたのかもしれません。この時期の作品はほとんど例外なく、非常に力強く「反帝国主義」「反戦争」を打ち出しています。

第3期は、プラハに戻ったのち、収容所で亡くなるまでの期間です。この時期に、シュルホフは第2期にはすでに共感を寄せていた共産主義思想により近づいていきます。

1925年からは断続的に交響曲の作曲に取りかかり、未完も含め、亡くなるまで8曲も書いています。第2期の作品にみられたような過激さ、前衛的な作風は影をひそめ、よりわかりやすく、ある種(共産主義の)プロパガンダ的作品が増えていきます。

:時代の波を感じますね。そんな彼とシェーンベルクとの関係は?

 

松﨑:シュルホフは、シェーンベルクと1919年に手紙のやり取りをしていたことが確認できています。もともとはシュルホフが『表現主義の6つの夕べ』と題したコンサートシリーズで、シェーンベルクの作品を演奏する許可を乞う内容でしたが、次第に2人の考え方の違いがあらわになっていきます。

:仲が悪くなる?

松﨑:シュルホフはシェーンベルクに対し、直接的な批判とも捉えかねられない手紙を送っており、結果としてシェーンベルクはシュルホフに「自作品の演奏を一切許可しない」と拒絶の手紙を送り、その手紙で両者間のやりとりは終わっています。

:「オレの作品に手を出すな!」ってわけですね。でも先にケンカ売ったのはシュルホフっぽいし。その手紙の内容もレクチャーでぜひ!

松﨑:はい!でもシュルホフがシェーンベルクの作品を非常に高く評価していたのは事実なようで、シュルホフが同意できなかったのは、作品に似つかわしくないシェーンベルクの保守的態度であったようです。

:あんな自由な作品を書いたシェーンベルクが「許可しない」なんてね〜。

松崎:シェーンベルクから拒絶を突きつけられたシュルホフは落胆して、同じく書簡のやりとりをしていたアルバン・ベルクやアレクサンダー・フォン・ツェムリンスキーに、どうかシェーンベルクとの仲を取り持ってほしい、と依頼しています。

:なんか大変そう!そこらへんもレクチャーで詳しくお話しいただきたいですが、さて、レクチャーの聴きどころを教えてくださいますか。

松﨑:今回のコンサートのテーマは「エルヴィン・シュルホフとシェーンベルク」ですから、先に述べたような両者のやりとりを、他の同時代の作曲家(ベルクやウェーベルンなど)との書簡の内容も交えながらお伝えできたらと思います。

書簡の調査をして改めて、第一次世界大戦がヨーロッパに与えた影響はあまりにも大きいものであったと感じています。加えて、シュルホフ、シェーンベルク、そしてベルクも含めた三者の社会に対する意見の相違は、それぞれの生まれた年代の違いによって引き出されているようにも感じられます。

:年代も違えば環境も違うし。

松﨑:それに、各人が第一次世界大戦にどのように関わったかは、その作風を決定づける重要なファクターとなりえたように感じます。激動の時代を、各作曲家が「どのように生きていくべきか」と必死に考えていた様子が、手紙にも、そしてもちろん作品にも表れているのだということを、お話しできたら幸いです。

:そこはとても大事なポイントですね!演奏プログラムの聴きどころもおきかせてください。

 

松﨑:今回演奏するシュルホフの作品はどちらも1920年代のものです。前述した区分でいえば第2期の作品で、シュルホフがダダやジャズに興味をもち、それを存分に取り入れていた時期の作品といえるでしょう。

《パルティータ》(1922)は当時流行していたダンス・ミュージックをちりばめた作品ですが、各所では街中の騒音や、楽団の調子はずれなラッパや太鼓の音が聞こえたり、あるいは無声映画のワンシーンを想起させるようなストーリーが展開されていたりします。

連弾のための《皮肉》(1920)も、その名の通り皮肉たっぷりな音とリズムで構成されており、ケタケタとわらう声や、怒声、サイレンの音などが聞こえるような、非常にブラックな笑いに満ちた作品です。

あいだに演奏するシェーンベルクの《3つのピアノ曲》Op.11(1909、1924年改訂)は、十二音技法以前、無調期のシェーンベルクの傑作のひとつです。シェーンベルクの書く音の光の強さや鋭さ、あるいは、無調とはいえ時おり出現する調性の響きが醸し出す、これ以上ないほどの官能性は、同時代の他の作曲家の作品にはあまり見られず、やはりシェーンベルクは天才だなあとヒシヒシと感じます。

 

:シュルホフもシェーンベルク作品を演奏したかったでしょうね〜。シュルホフの演奏を録音で聴きましたが、なんてすごいピアニスト!シェーンベルク作品の演奏音源を残して欲しかったですよ。

松﨑:本当にそうですよね。演奏できるって幸せです。今回、シュルホフの《皮肉》でご一緒に連弾するのがとても楽しみです!

:すごくカッコいい曲で、私も楽しみ!皆さんに聴いていただきたいです!

松﨑:シュルホフの作品はなかなか演奏される機会が少ないのですが、とても素敵な作品が多いですし、ご来場いただいた方に1920年代という激動の時代の雰囲気を感じていただけたら幸いです!

:ワクワクしますね!みなさま、ぜひいらしてください!

2024年4月18日・記

廻 由美子


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