by 廻 由美子
前回の「月に憑かれたピエロ」歌詞についてはこちら
上の素敵な、そして不思議なオーラを放つ写真をご覧ください。
ジャズ・ヴォーカリストの HISASHIさんです。
唯一無二の歌声、4オクターヴに迫る音域、アートでシアトリカルな表現力。
ジャズに軸足を置きながらもその多彩な活動はとどまるところを知りません。
そのカバレットも多彩で、クルト・ヴァイルはもちろんのこと、高橋悠治、北爪道夫、伊左治直、久木山直、山下洋輔など日本の錚々たる現代作曲家の作品も取り上げ、コンサート会場にいらした作曲家は大喜びしたり、思わず涙したり。
(青字の部分をクリックすると、当該する作曲家作品のHISASHI&廻の演奏動画がご覧いただけます)
そんなHISASHIさんと今回演奏するのがフレデリック・ホランダーと林光、です。
シェーンベルク・シリーズで唯一シェーンベルク作品がプログラムに載らない日、でもあります。
今回は、少しリラックスして、シェーンベルクが生きた時代の空気を感じてみてはいかがでしょう。
まずは、ホランダーって誰?
彼の書いた有名な作品としては、マレーネ・ディートリッヒ主演の「嘆きの天使」 (1930)や、オードリー・ヘップバーン主演の「麗しのサブリナ」(1954)の映画音楽があげられるでしょう。
でも、彼の本質は映画よりも「カバレット(キャバレー)」にあると思います。
ホランダー(1896~1976)は、ユダヤ人のご両親のもと、イギリスで生まれました。
お父さんがロンドンのテムズ川沿いにあった「バーナム&ベイリー・サーカス」の音楽監督で、お母さんはそこの歌手だったそうですから、生まれからして素敵です。
それに加えて、親戚縁者には、クラシック、キャバレー、芝居などの関係者がズラリといたといいますから、ホランダーのイキイキとした音楽は、育った環境の影響も大きいと言えるでしょう。
さて、1899年、ホランダー家族は故郷ベルリンに移ります。
「キャバレーとシェーンベルク」でご紹介したベルリンのキャバレー「ユーバー・ブレットル」、そこではシェーンベルクも座付き作曲家として働いたわけですが、なんとホランダーのお父さんも音楽監督をしたようです。
音楽や芝居が身近にある生活、そんな環境で、若いフレデリック・ホランダーの才能はみるみるうちに開花していきます。
エンゲルベルト・フンパーディンクに作曲法を習うかたわら、夜は無声映画のピアノを弾いて、現場で即興演奏の腕をメキメキ上げたりしていました。
ベルリン・キャバレー真っ盛りの第一次大戦後は、マックス・ラインハルトの店「響きと煙」などで働いたのち、自分のキャバレー「ティンゲル・タンゲル・シアター」を開くまでになったのです。
今回は、ホランダーがアメリカに亡命する前の、まさにベルリン・キャバレー時代のものを集めました。
煌めくようなスピード感、軽やかさ、楽しさで、思わず踊り出したくなってしまいます。
しかし、それだけではありません。楽しい中にも毒があり、ピリリと風刺が効いているのもホランダーの特徴です。
ホランダーは「キャバレーとは、鉄でできた凶暴な者たちを、洗練された言葉や音楽という、唯一の綺麗な武器で退治できる戦場」と言っていたようで、筋金入りです。
彼の「ティンゲル・タンゲル・シアター」で何をやったかというと、ナチスがだんだんと台頭してきた1931年に、ヒトラーを大胆に風刺するショーを上演したそうですから、
まさに「大胆にも程がある」です。
崖っぷちの笑い、まさに、ベルリンのキャバレー人、ここにあり、ですね。
ナチスが政権をとった1933年には、命からがら亡命して、ハリウッドに移り住みましたが、移り住んだ当初は、奥さんが食料の万引きをするほど貧困に喘いだようです。
さて、そのホランダーの歌詞を、なんとHISASHIは自ら訳し、なんともキレのいい日本語詩に仕立て上げました!
浅草オペラや、活動弁士の香りもする、日本語によるホランダーのキャバレー・ソング!
笑いと生命力に満ち、しかし、キラリと光る鋭い刃をも隠し持つホランダー、それはそのままHISASHIさんの音楽にもピッタリと当てはまります。
廻 由美子の無声映画風ピアノ・アレンジと共にお楽しみください。
次回は林光のソングについてです。お楽しみに!
廻 由美子
2024年3月27日・記
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<コンサート情報>
「新しい耳」@B-tech Japan
シェーンベルク・シリーズ
2024年7月6日(土)
15:30開演(15:00開場)
HISASHI(vo)x 廻 由美子(pf)
〜カバレット!笑いと抵抗の文化・ホランダーと林光〜
1919~のホランダーのカバレット・ソングの数々、そして林光の「行ってしまったあんた」「舟唄」「雨に濡れた木馬」他
チケットはこちら
限定25席ですので、お早めにご予約ください。
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